イントロ

もしあなたが、世界の果てがどこにあるのか誰も知らない異世界に転生したら。じつは、地面に立てた棒一本と、遠くの町までの距離だけで、その世界一周の長さを言い当てられます。二千年以上前、エジプトの図書館長エラトステネスが、まさにそれをやってのけました。
なぜ世界の大きさを知りたいか

世界の大きさがわかると、いろいろなことが変わります。海の向こうにある大陸まで、船でどれくらいかかるのか。地図をどんな縮尺で描けばいいのか。世界が丸くて、しかも有限だと知っているかどうかで、遠出の計画の立て方がまるで違ってきます。
ポイント
- 遠い大陸までの距離を見積もれる
- 地図をどの縮尺で描くか決まる
- 世界は丸くて有限だとわかる
シエネの井戸

手がかりは、南の町シエネの井戸でした。夏至の日の正午だけ、深い井戸の底まで日がさしこみ、まっすぐ立てた棒が影をつくりません。太陽がちょうど真上に来ているのです。エラトステネスは、この話を書物で知っていました。
アレクサンドリアの影

同じ夏至の正午、北にあるアレクサンドリアでは、棒はしっかり影をつくります。その影の角度をはかると、およそ七度あまり。エラトステネスはこれを、円の一周のちょうど五十分の一と見積もりました。
平行な光と中心角
なぜこの角度が使えるのか。太陽はとても遠いので、光はどの町にもほぼ平行に降ってきます。すると、アレクサンドリアで棒がつくる影の角度は、地球の中心から二つの町を見たときの角度と、そっくり同じになります。
一周の五十分の一
つまり、二つの町のあいだの弧は、地球一周のちょうど五十分の一です。あとは、その弧の長さ、すなわち町のあいだの距離がわかれば、それを五十倍するだけで一周の長さが出ます。
町のあいだの距離

町のあいだの距離は、およそ五千スタディアとされていました。隊商が進む日数や、歩測を専門にする人たちの記録から見積もった数字です。これを五十倍して、地球一周はおよそ二十五万スタディアと結論しました。
どれくらい当たっていたか
どれくらい当たっていたのか。彼が使ったスタディアの正確な長さは今もわかりませんが、換算するとおよそ四万から四万六千キロメートル。実際の地球一周は約四万キロですから、悪く見積もっても一割五分ほどのずれです。棒と影と歩測だけで、この精度でした。
ポイント
- スタディアの長さには諸説ある
- 換算で約4万〜4万6千km
- 実際の値との差は最大でも約15%
実践編・使いどころ

ここからは実践編です。世界一周のおよその長さがわかれば、まだ見ぬ大陸までの距離を、緯度の差から推し量れます。地図を実寸の何万分の一で描くか決められます。船で西へ向かえばいつか元の岸に戻る、とわかったうえで航路を引けます。
ポイント
- 緯度の差から遠い土地までの距離
- 地図の縮尺をきちんと決める
- 世界一周の航路を計画できる
実践編・始める条件
始めるのに必要な条件は多くありません。南北にだいたい並んだ二つの町。そのあいだの距離がわかること。まっすぐな棒と平らな地面。そして、夏至に近い、よく晴れた日。この四つがそろえば、観測を始められます。
実践編・その世界流の工夫と効果
その世界での工夫は、距離のはかり方です。隊商の日数に一日の道のりをかける。歩数を数える人をやとう。同じ道を数回はかって平均する。ていねいにやれば誤差は一割ほどにおさまり、世界一周が二万キロでも八万キロでもなく、四万キロだと言い切れます。
実践編・次の一手
測れたら、次の一手です。同じ棒の影の角度から、自分がいる土地の緯度がわかります。離れた町と正午の時刻の差をくらべれば、東西のずれ、経度がわかる。緯度と経度がそろえば、はじめて縮尺つきの世界地図が描けます。
まとめ

まとめます。夏至の正午、影のできない町とできる町。その影の角度が一周の五十分の一なら、町の距離を五十倍すれば世界一周の長さになります。必要なのは棒一本と、距離をはかる根気だけ。剣も魔法もなくても、あなたは世界の大きさを手にできます。
参考・出典
- Eratosthenes(Encyclopaedia Britannica)
- Tropic of Cancer(Encyclopaedia Britannica)
- stadium (Greek unit of measurement)(Encyclopaedia Britannica)
- Aswan, Egypt(Encyclopaedia Britannica)