隣国とはなぜ揉めるのか

転生先で領地を任されたら、まず気づくはずです。国境を接した隣国とは、なぜかいつも小競り合いが絶えません。逆に遠く離れた国とは、会ったこともないのに驚くほど友好的な関係を築けたりします。これは偶然ではなく、古代中国で編み出された、れっきとした外交の理屈があるのです。今日はその考え方を、転生先でも使える形で見ていきましょう。
国境を接する国は敵になりやすい

隣り合う国同士は、水源や街道、境界の村など、奪い合う資源がすぐそばにあります。距離が近いぶん、小さな諍いもすぐ大きな衝突に発展しがちですし、一度こじれた関係はなかなか元に戻りません。逆に遠い国とは、そもそも奪い合う対象が少なく、争う理由が薄いのです。
『遠交近攻』とは何か
この状況を逆手に取った戦略が『遠交近攻(えんこうきんこう)』です。遠くの国とは友好を結び、近くの国は攻め取る、という意味の四字熟語です。善悪の判断ではなく、敵と味方を距離という単純な基準で振り分ける、割り切った考え方といえます。
ポイント
- 遠くの国=友好を結ぶ
- 近くの国=攻め取る
- 距離が敵味方の基準
生まれたのは中国・戦国時代

この策を説いたのは、紀元前3世紀、中国の戦国時代に秦(しん)の宰相となった范雎(はんしょ)という人物です。当時の秦王は遠方の大国ばかりに目を向けていましたが、范雎は『遠くの斉(せい)や楚(そ)を攻めても土地は保てません。まず隣の韓(かん)や魏(ぎ)を攻めるべきです』と進言し、王の方針を大きく転換させました。
なぜ近くを攻める方が得なのか
理由は単純です。遠い国を攻めて勝っても、間に他国を挟んでいては兵站が伸びきり、占領地を維持できません。一方、隣国を攻め取った土地はそのまま自国の領土につながり、統治も補給も格段に楽になるのです。遠国との友好は、近攻に専念している間に背後を突かれない保険でもあります。
秦はこうして天下を統一した
范雎の策を採った秦は、まず隣接する韓と魏を切り崩し、着実に領土を広げていきました。遠い斉や楚とは同盟や不可侵を保ち、複数の国を同時に敵に回す二正面での戦いを避け続けたのです。この地道な積み重ねが、紀元前221年、ついに中国全土の統一へとつながりました。
『合従』という逆の発想もある

面白いことに、これに対抗する策も存在しました。『合従(がっしょう)』と呼ばれる、遠く離れた国々が手を結び、近くの強国に共同で立ち向かう戦略です。遠交近攻を仕掛けられる弱小国の側は、この合従で対抗しようとしたのです。強者の戦略と弱者の戦略が、常にせめぎ合っていたわけです。
永遠の友も敵もいないと心得る

注意したいのは、遠交近攻はあくまで状況しだいの一時的な計算だという点です。今日の友好国も、近くの国を攻め取って国境が動けば、明日には新たな近国となり得ます。距離だけで敵味方を固定してしまうと、情勢の変化に対応できなくなるので気をつけましょう。
領主なら、まず地図で敵味方を仕分けよ

転生先で領地や小国を任されたら、まず地図を広げ、国境を接する国と、遠く離れた国を色分けしてみましょう。隣国には最低限の防備と交渉窓口を、遠国には使者や贈り物で友好を示す。それだけで、限られた人手や資金をどこに割くべきか、外交の優先順位がはっきり見えてきます。
遠交には条件と工夫がいる
遠国と結ぶには、街道や使者といった交通・情報の手段が前提になります。大国でなくても、商人ギルドを介した縁談や交易協定で緩やかに結び、近隣とは小競り合いを避けながら境界を整理する、という工夫でも十分です。派手な軍事同盟を組めなくても、身の丈に合ったやり方で応用できます。
ポイント
- 交通路と使者が前提
- 商人ギルド経由でも可
- 近隣は小競り合いを回避
効果はどれくらい見込めるか
効果は一夜にしての逆転ではなく、二正面での消耗を避けられる分だけ、着実に有利になる、という程度のものです。実際に秦は范雎の献策から統一まで、半世紀以上の歳月をかけています。焦らず、隣国を一つずつ確実に処理していく忍耐こそが要になります。
次の一手:占領地をどう治めるか
隣国を攻め取ったら、そこで終わりではありません。奪った土地の住民を治め、次にどの近国へ矛先を向けるかを見極める番です。同時に、味方だったはずの遠国が、領土の拡大によって新たな隣国になっていないか、地図をこまめに見直す習慣を持ちましょう。
まとめ

遠交近攻は、距離という一点で敵味方を整理する、シンプルながら奥深い外交術です。異世界で領地を持つ立場になったら、隣国とは慎重に、遠国とは友好にと、まず地図を広げるところから考えてみてください。それが、無用な戦を避けながら領地を育てていく、確かな第一歩になるはずです。
参考・出典
- Shiji(Britannica)
- Sima Qian(Britannica)
- Qin dynasty(Britannica)