イントロ

もしあなたが異世界で、川ぞいの領地を任されたら。豊かな水の恵みと引きかえに、毎年のように川があふれ出す。田畑も家も洪水にのみこまれる。堤防を高く積んでも、なぜかまた壊れてしまう。今回は、暴れ川を正面から封じこめるのではなく、たくみに受け流して村を守る、昔の人の知恵を解説していきます。
暴れ川という難敵

多くの村にとって、川はめぐみであり、同時におそろしい難敵でした。大雨のたびに水かさが増し、あふれた濁流が実った田畑を根こそぎ押し流していく。人々は必死に土を盛って堤防を築きます。ですが自然の力の前では、その壁もたびたびあっけなく破られてしまったのです。
ポイント
- 大雨のたびに濁流があふれる
- 田畑も家も押し流される
- 築いた堤防もたびたび壊れる
連続堤の落とし穴

まず、いちばん思いつきやすいのが、川ぞいにすきまなく高い堤防を築く方法です。川を完全に閉じこめてしまうやり方ですね。ところが、これには落とし穴があります。川をむりにせき止めると、水位はかえって高くなる。そして、ひとたびどこか一か所が切れれば、たまった水がいっきにおそいかかるのです。
ポイント
- すきまなく高い壁で閉じこめる
- せき止めると水位はかえって高く
- 一か所切れると一気に大被害
発想の転換・受け流す

そこで生まれたのが、発想の大転換です。あふれる水を力ずくで止めようとしない。むしろ、あふれてもよい場所をこちらであらかじめ決めておく。そして、あふれる時と場所をうまくこちらの手であやつるのです。戦国の武将、武田信玄も、こうした知恵で暴れ川を治めたと伝えられています。
ポイント
- 力ずくで止めようとしない
- あふれてよい場所を先に決める
- あふれる時と場所をあやつる
霞堤とは
そのかなめが、霞堤(かすみてい)と呼ばれる堤防です。ふつうの堤防とちがって、わざと切れ目をつくります。堤防を少しずつ重ねながらずらして並べ、あいだにすきまをあけるのです。ふだんは、川の水がこの切れ目からもれることはありません。切れ目が力を発揮するのは、水かさが大きく増えた、その時なのです。
あふれさせて戻す
では、洪水のときどうなるのでしょう。増えすぎた水は、堤防の切れ目からそっと外へあふれ出します。あふれた先は、あらかじめ決めておいた田んぼなどの遊水地。ここに水を一時的にためることで、川下へ流れる水の勢いを弱めます。そして水が引けば、ためた水はまた同じ切れ目から川へ静かに戻っていくのです。
勢いをいなす工夫

堤防だけではありません。川の流れが強くぶつかる場所には、水の勢いをそぐための工夫をこらします。木を牛の形に組んだ牛枠や、石を詰めた籠を川の中に据えるのです。これらが激しい流れを受け止め、勢いをやわらげる。すると、土砂が少しずつたまって、岸を守ってくれるようになります。
ポイント
- 牛の形の木組み・石詰めのかご
- 激しい流れを受け止め弱める
- 土砂がたまり岸を守る
連続堤とのちがい
連続した堤防と霞堤をくらべてみましょう。すきまなく閉じこめる連続堤は、ふだんの水位が高く、決壊すれば被害はいっきに広がります。いっぽう霞堤は、あふれる場所を決めておくぶん、水位はおさえられ、水はけもよい。決壊しても、被害はその場にとどまりやすいのです。
実践その1:どこを守るか

ここからは異世界での実践編です。まず、地形をよく読みます。どこで川があふれやすいか。どの低地なら、いざという時、水にひたっても被害の少ない遊水地にできるか。そして、村や大事な田畑は、少しでも高いところへ。守る場所と、あえてゆずる場所をはっきり分けるのが、出発点になります。
ポイント
- どこがあふれやすいか地形を読む
- 被害の少ない低地を遊水地に
- 村や大事な田畑は高い所へ
実践その2:組み合わせて守る
守りは一つではありません。上流では、水制で流れの勢いをそぐ。その下流に霞堤をもうけて、水を受け流す。あふれた水は遊水地へみちびき、引いたら川へ戻す。このいくつものそなえを、川の流れに沿って組み合わせることで、暴れ川ははじめて、おだやかなめぐみの川へと姿を変えるのです。
注意点

ただし、心得もいります。遊水地にえらんだ土地は、時おり水につかる覚悟がいる。そこを使う人々の理解と合意が欠かせません。また、この知恵も万能ではありません。想像を超える大洪水では、被害をゼロにはできない。日ごろから、たまった土砂や草を手入れし、上流と下流のつり合いにも目を配ることが大切です。
ポイント
- 遊水地は住む人の合意が要る
- 大洪水では被害はゼロにできない
- 土砂や草の手入れを欠かさない
まとめ

暴れ川を正面から封じこめるのではなく、あふれる時と場所をこちらで決めて、たくみに受け流す。霞堤と水制の知恵は、自然と力くらべをせず、うまくつき合う道を示してくれます。もし異世界で暴れ川に困ったら、ぜひこの受け流す治水を思い出して、あなたの領地を水害から守ってください。