森を丸裸にした産業とは

もしある国で、たった一つの産業のせいで森という森が丸裸になっていったとしたら、あなたは信じられますか。武器や道具を作るための産業が、皮肉にも国土の緑を食いつぶしていったのです。実はこれは空想の話ではなく、かつてイギリスで実際に起きた出来事です。その産業とは、意外にも『鉄づくり』でした。今日はその驚きの歴史をたどります。
鉄を作るほど木が減る仕組み

近代以前、鉄を作るには炉の中で鉄鉱石を高温で溶かす必要があり、その燃料には木から作る『木炭』が使われていました。石炭がそのまま使われなかったのは、不純物のせいで鉄の質が落ちてしまうと考えられていたためです。ところがこの木炭、鉄を少し作るだけでも大量の木材を必要とする、恐ろしく燃料を食う燃料だったのです。
鉄1トンが消費する森
実際、鉄1トンを作るのに必要な木炭を得るには、数エーカーもの林を切り倒す必要があったと言われています。製鉄所が一か所にとどまり続ければ、周囲の森はまたたく間に消えていってしまうほどの消費量でした。木を切り尽くしてしまえば、製鉄所ごと新しい森を求めて移転するしかありません。
実際に起きた森林危機

この危機は歴史上でも実際に起きています。16世紀から17世紀にかけてのイギリスでは、製鉄業による森林伐採への懸念が高まり、軍艦の建造に欠かせない木材を守るため、特定の森の近くでの製鉄を制限する法律まで作られました。鉄と船、どちらも国の力を支える産業だからこそ、木材の奪い合いが政治問題にまでなったのです。
森を守る循環伐採の知恵
森を守りながら木炭を作り続ける知恵として発達したのが『萌芽更新(コピシング)』という手法です。木を根元近くで切り、切り株から生えてくる若い芽を十数年かけて育て、また切って使うことを繰り返す、循環型の伐採方法でした。区画を分けて順番に伐採すれば、常にどこかの区画は使える状態を保てます。木を根こそぎ枯らさない、賢いやり方でした。
コークスという転機

とはいえ、この方法にも限界がありました。増え続ける鉄の需要には、森の回復速度がとても追いつかなかったのです。転機となったのが1709年、イギリスのコールブルックデールという地で、アブラハム・ダービーという人物が、石炭を蒸し焼きにした『コークス』を使って鉄を作ることに成功したことです。これにより、製鉄は森への依存から徐々に解放されていきました。
よくある誤解と注意点
ただし、コークスへの切り替えは一夜にして解決した魔法の一手ではありませんでした。当初のコークス製の鉄は品質にばらつきがあり、木炭鉄に取って代わるまでには、長い年月と技術の改良が必要だったのです。焦って燃料だけ変えても、品質という別の壁が立ちはだかることを教えてくれます。
異世界での使いどころ

さて、ここからは異世界での実践編です。あなたが治める土地で製鉄業が栄え始めたなら、いずれ周囲の森が同じ危機に見舞われるかもしれません。産業が軌道に乗る前だからこそ、燃料の先行きを見据えておくべきでしょう。
導入の条件・前提
導入にまず必要なのは、今の製鉄でどれだけの木が消費されているか、そして森がどれだけの速さで育ち直せるかを、大まかにでも把握することです。片方だけを見ていては、危機に気づいた時にはもう手遅れになりかねません。加えて、木炭に代わりうる燃料が土地の中や近くに眠っていないか、探しておく価値もあります。
その世界流の工夫

森が育つ速さを超えて伐採が進んでいるなら、切り株から芽を育てる循環伐採を取り入れるのが現実的な一手です。もし燃えやすい黒い石が採れる土地があれば、それを蒸し焼きにして木炭の代わりに使えないか、少量ずつ試してみる価値もあるでしょう。品質を見極めながら、無理なく置き換えを進めることが肝心です。
見込める効果と次の一手
森の消費速度と回復速度のつり合いが取れていれば、製鉄業は何世代も続けられますが、そのつり合いを崩せば、いずれ燃料が尽きて産業ごと立ち行かなくなります。この壁を越えられれば、次は燃料の制約を離れ、より大きな規模の製鉄へと踏み出せるはずです。
まとめ

鉄づくりは、実は森づくりと切っても切れない関係にあります。燃料の先行きを見据え、循環と代替の両方に手を打っておくことが、あなたの国の産業を末永く支える鍵になるはずです。かつてのイギリスがそうだったように、危機は必ずしも終わりではなく、次の一歩への入り口にもなるのです。
参考・出典
- Abraham Darby(Encyclopaedia Britannica)
- Coke (fuel)(Encyclopaedia Britannica)
- Charcoal(Encyclopaedia Britannica)