つかみ:山の向こうに泉がある

山の向こうに、きれいな泉があります。でも山が邪魔で、水を街まで直接引くことができません。山を大きく回り道させれば、距離が延びて工事も手間も増えます。それなら山の中をまっすぐ通せばいい。しかし山の中に道を掘るのは、先が見えない暗闇の仕事です。今日は二千五百年以上前に、それをやってのけた人たちの話をします。
問題提起:山をどう越えて水を運ぶか

古代ギリシャの島、サモスには、街に水を運ぶ必要がありました。水を運ぶ道は、高いところから低いところへ、少しずつ下るように作らなければなりません。ところが水源は山の向こう側にあります。山を越えるには、回り道をするしかありません。回り道をすれば、道のりは長くなり、勾配を保つのも難しくなります。
核心:両側から掘って真ん中で出会う
そこで考えられたのが、山の両側から同時に掘り進め、真ん中で出会わせる方法です。北側と南側から、二組の作業班が掘っていきます。ただし、二つの穴を山の中で合わせるには、掘る方向と高さを正確に決めなければなりません。途中で合わなければ、工事は失敗に終わります。
ポイント
- 山の両側から同時に掘る
- 真ん中で出会わせる
仕組み:エウパリノスのトンネル

このトンネルは、メガラ出身の技術者エウパリノスが設計したと、歴史家ヘロドトスが記録しています。全長は約千三十六メートル。硬い岩の山の中を、一本の水路が貫いています。水は地下を流れ、街の泉へと届けられました。今も山の中に残るこの穴は、古代の測量技術の証拠です。
仕組み:測量で掘る線を決める
では、山の中でどうやって方向を決めたのでしょうか。記録は多くありません。ただ、山の上に目印を立て、角度と距離を測って、掘る線を地上に引いたと考えられています。地上で正確な線さえ決まれば、地下の二組は、その線をたどるだけで出会えるのです。
仕組み:山の中での出会い

二組が掘り進んだ先で、本当に出会えたのでしょうか。伝えられているのは、出会いの場所にわずかなずれがあったということです。ただし、そのずれの大きさは、資料によって数字が異なります。それでも、山の中の二つの穴がほぼ合ったこと自体が、当時の測量の確かさを示しています。
具体例:年表でたどる
トンネルが掘られたのは、紀元前六世紀ごろとされています。ヘロドトスが記録を残しましたが、その後は長い間、その姿は人々の記憶から遠ざかっていきます。十九世紀になって調査が行われ、今では見学できる遺跡として知られています。
注意点:よくある誤解
よくある誤解は、山の中は一直線に掘れば最短で着く、という考えです。実際には、硬い岩を避けたり、測量のずれを直したりするため、トンネルは曲がって掘られることがあります。大事なのは、一直線にこだわることではなく、確実に出会える道を選ぶことです。
まとめ:工事の要点
ここまでをまとめると、山の両側から掘り進めること、地上の測量で掘る線を決めること、そして出会いの精度が工事の成否を決めること、の三点が要点です。この三つを押さえれば、山を越えずに水を通す発想が見えてきます。
ポイント
- 山の両側から掘り進める
- 地上の測量で掘る線を決める
- 出会いの精度が成否を決める
実践編①:使いどころ

ここからは異世界での実践編です。たとえば、山の向こうに澄んだ泉があるのに、険しい山のせいで村から行き来できない場合です。両側から掘れば、回り道をせずに水を引けるかもしれません。鉱山の坑道を両端から掘り合わせる場面にも、同じ考え方が使えます。
実践編②:導入の条件
導入の条件は三つあります。まず、掘る方向を決められる目印と測量の道具があること。次に、両側から同時に掘れるだけの人手があること。そして、山の高さや岩の硬さを、ある程度確かめられることです。どれかが欠けるなら、まずは短い区間で試すのが安全です。
実践編③:その世界流の工夫
道具が足りない世界では、工夫で補えます。山の上に旗や杭を立てて、掘る方向を示す。地下では灯りを持ち、声や合図で掘る先の相手と位置を確かめる。古代の人も、掘る音を聞き取りながら進んだと考えられています。小さく試し、ずれを見つけたら少しずつ直すのがコツです。
実践編④:見込める効果の程度

効果の大きさは、規模によって大きく変わります。小さな水路を一本引くなら、数か月から数年の作業で済むかもしれません。千メートルに及ぶ山抜きになれば、長い年月と多くの人手が必要です。派手な成果を急がず、まずは短い距離で、方向を合わせる練習を積んでください。
実践編⑤:次の一手とまとめ
次の一手は、トンネルで引いた水を勾配で流すことです。勾配の考え方を組み合わせれば、水車や畑の用水へと広げられます。両側から掘り合わせる発想は、鉱山の坑道や地下の水路にも使えます。山の向こうの水も、正確な測量があれば、手に入れられるのです。
参考・出典
- Tunnel of Eupalinos(Wikipedia)
- Eupalinian Aqueduct(エウパリノスの導水路)(Ministry of Culture and Sports (Greece))
- Herodotus, Histories, Book 3(Tufts University Perseus Digital Library)