数日で都に届く急報

王の使者が、何百キロも離れた都まで、たった数日で急報を届ける。そんな話を聞くと、超人的な騎手か、疲れ知らずの魔法の馬でも想像してしまいますが、種を明かせば仕組みはずっと現実的です。以前の回でお話しした光通信とはまた違う、人と馬そのものを運ぶ仕組みです。今日はその仕組み、駅伝制について見ていきましょう。
一頭の馬では続かない

もし一頭の馬に全行程を走らせようとしたら、どうなるでしょうか。馬は途中で疲れ果て、速度はどんどん落ちていきます。無理をさせすぎれば、馬自体を潰してしまうことにもなりかねません。長い距離を速いまま届けるには、一頭の馬に頼らない、別の工夫が必要になるのです。
駅伝制のしくみ
その工夫が『駅伝制』です。街道沿いに一定間隔で中継拠点、つまり『駅』を置き、そこで馬と、時には使者そのものも交換しながら情報を運びます。次の駅までなら誰でも全力を出し切れる、一人の英雄の頑張りに頼らない、仕組みそのものの速さなのです。
駅で用意されるもの

駅には、次の区間を全力で走れる元気な馬と、休息をとった使者が常に用意されています。あわせて食料や水、簡単な宿泊の場も整えられ、使者は書状だけを次の使者に手渡し、馬を乗り換えれば、すぐに次の区間へと出発できるのです。
誰も無理をしない工夫
この仕組みの肝は、誰も無理をしないことです。一頭の馬も一人の使者も、体力の残る短い区間だけを全力で走ればよく、次の区間は常に元気な馬と人が引き継ぎます。途中で足を痛める心配も減ります。無理な連続走行と、区間ごとの交換とでは、平均の速さがまったく違ってくるのです。
実在した駅伝網

実際、古代ペルシャの王の道や、モンゴル帝国の駅伝網、日本の古代の伝馬制度など、時代も場所も違う多くの国がこの仕組みを整えてきました。広大な領土を実際に治めるには、情報を速く届ける道具として、駅伝制がほとんど必須だったのです。
情報の速さが国の反応速度
情報が速く届くということは、国の反応そのものが速くなるということです。国境の異変がすぐに都へ届けば、対応もすぐに決まり、その決定もまた駅伝を通じて速く現場へ返っていきます。情報の速さが、そのまま国家の反応速度になるのです。
よくある誤解と注意点
ここでよくある誤解に注意してください。『馬の質さえ良ければ十分だ』というのは早合点です。駅の間隔や運営が整っていなければ意味がありません。また『一人の名手の飛脚がいれば足りる』というのも誤解で、仕組みとしての中継網があってこそ、安定した速さが保てるのです。
異世界での使いどころ

さて、ここからは異世界での実践編です。あなたが領主や国王として広い領土を治めるなら、名馬や名うての使者を探すより先に、街道沿いに一定間隔で駅を設ける仕組みそのものを整えることを考えてみてください。優れた個人を探すより、仕組みを整えるほうが確実です。
導入の条件・前提
駅伝制を始めるには、まず一定間隔で駅を置ける整った街道と、各駅に配置する馬や食料、そして交代要員となる人手が要ります。特別な技術は要りませんが、季節や天候にかかわらず絶え間なく維持していく体制づくりが欠かせません。
その世界流の工夫

馬をそろえるのが難しい土地では、無理をする必要はありません。馬の代わりに徒歩の飛脚を交代でリレーさせるだけでも、一人に全区間を任せるよりずっと速く情報を運べます。険しい山道など馬が向かない区間だけ徒歩に切り替えるのも手です。まずは重要な街道の一本だけで試してみましょう。
見込める効果の程度
駅伝制が整えば、数日かかっていた急報が、その何分の一かの日数で届くようになります。逆に整備を怠れば、せっかくの決定も現場に届く前に状況が変わってしまい、判断そのものが意味をなさなくなることさえあります。
次の一手
駅伝網が街道に根付いたら、次は緊急の急報だけでなく、商人の荷や普段の手紙も運べる仕組みへと広げてみましょう。国の反応速度を支えた仕組みが、そのまま交易や暮らしを支える道にもなっていきます。
まとめ

駅伝制の速さを支えているのは、特別な馬でも超人的な使者でもなく、一定間隔に置かれた駅で馬と人を交換し続ける、仕組みそのものです。情報を運ぶ速さが、そのまま国の反応速度になる。異世界で広い領土を治めるときは、この考え方を、ぜひ覚えておいてください。
参考・出典
- Postal system(Encyclopaedia Britannica)
- Mongol empire(Encyclopaedia Britannica)
- Achaemenid dynasty(Encyclopaedia Britannica)