同じ『鉄』なのに違う作り方

同じ『鉄』という言葉でも、名刀に使われる鋼と、農具に使われる鉄では、まったく違う作り方で生まれています。片方はじっくり数日かけて少量だけ作り、もう片方は炉を燃やし続けて次々と鉄を送り出します。どちらも立派な製鉄法ですが、めざす先はまるで違うのです。今日はこの二つの違いを見ていきましょう。
なぜ二つの方法があるのか

なぜ製鉄には、性格の異なる二つの方法が並び立っているのでしょうか。技術が進んだなら一つに絞ってしまえばよさそうなものですが、実はそれぞれが得意なことと苦手なことを抱えていて、目的によって使い分けられてきたのです。その仕組みを、順番に見ていきましょう。
たたら製鉄のしくみ
一つ目が、日本刀の鋼でも知られる『たたら製鉄』です。炉に砂鉄と木炭を入れ、比較的低い温度でじっくりと時間をかけて還元し、鉧(けら)と呼ばれる鉄の塊を作り出します。一度の操業には三日三晩ほどかかり、人手をかけたわりに、できる量は多くありません。
高炉(溶鉱炉)のしくみ
もう一つが、産業革命以降に広まった『高炉』、つまり溶鉱炉です。鉄鉱石にコークスと石灰石を加え、高い温度で連続的に溶かし続けることで、銑鉄と呼ばれる鉄を絶え間なく取り出します。一度火を入れれば炉を止めない限り、次々と鉄を生産し続けられるのが最大の強みです。
温度の違いが生む鉄の差

この二つを分けるのが、まさに温度と時間です。低い温度でじっくり還元すると不純物の少ない鉄が得られますが、それだけ手間も時間もかかり、量は限られます。逆に高い温度で一気に溶かすと大量に作れる一方、炭素を多く含んだ、もろい銑鉄になってしまうのです。
質と量のトレードオフ
つまり、たたらは低温でじっくり作るぶん少量だが高品質、高炉は高温で連続的に作るぶん大量だがそのままでは使いにくい、という質と量のトレードオフがあるのです。どちらか一方が優れているという単純な話ではなく、目的に合わせて選ぶべき道具なのだと考えてください。
玉鋼と産業革命の鉄

実際、日本刀に使われる玉鋼はたたら製鉄で少量だけ作られ、刃物としての質が何より重んじられます。一方、産業革命期のヨーロッパでは高炉から大量の銑鉄を取り出し、そこからさらに精錬して橋や機械の材料を大量に生み出しました。目的の違いが、そのまま作り方の違いになっているのです。
よくある誤解と注意点
ここでよくある誤解に注意してください。『高炉の方が必ず優れている』というのは早合点です。用途によって向き不向きがあります。また『たたらは効率が悪いから廃れた技術だ』というのも誤解で、今も高品質な鋼を作る技術として大切に受け継がれています。
異世界での使いどころ

さて、ここからは異世界での実践編です。あなたが鍛冶屋や領主として鉄を扱うなら、少量でも切れ味の良い刃物を求めるのか、それとも大量の農具や武具をそろえたいのか、まず目的をはっきりさせてから、どちらの製鉄法に近づけるか考えてみましょう。目的を先に決めておくことが、遠回りを防ぐ近道になります。
導入の条件・前提
たたらに近い方法を始めるには、良質な砂鉄や鉄鉱石、大量の木炭、そして炉を数日つきっきりで動かし続ける人手が要ります。高炉のような連続生産を目指すなら、さらに絶え間ない燃料供給と、炉を支える大がかりな設備、そして長期間にわたる建設の投資が必要になります。
その世界流の工夫

本格的な高炉が難しくても、諦める必要はありません。まずは小さな炉でたたらに近いやり方を試し、良質な刃物用の鋼だけを少量作ることから始めましょう。水車で送風の力を補うなど、村に既にある動力を借りる工夫も、人手をかけずに生産の効率を後押ししてくれます。
見込める効果の程度
少量精鋭のやり方を選べば、名刀や上質な刃物に見合う鋼が手に入りますが、数はそろいません。連続生産に近づければ、農具や武具を数多くそろえられますが、そのままでは質が伴わず、追加の手間が必要になります。どちらを取るかで、村の暮らしぶりも変わってくるでしょう。
次の一手
連続生産の炉が動かせるようになったら、次はそこから出る銑鉄を、さらに手間をかけて精錬し、鋼に近づけていく工程に挑戦してみましょう。この一手が使いこなせれば、大量生産の強みを保ったまま質を底上げする道が開けます。
まとめ

たたら製鉄と高炉、どちらも同じ『鉄を作る』技術でありながら、めざす先はまるで違います。少量精鋭か、大量生産か。この質と量のトレードオフを頭に入れて選ぶことこそ、異世界で鉄を扱う者にとっての第一歩になるはずです。
参考・出典
- Blast furnace(Encyclopaedia Britannica)
- Steel(Encyclopaedia Britannica)
- 公益財団法人日本美術刀剣保存協会(日本美術刀剣保存協会(NBTHK))