何もかも負けていても勝てる

もし異世界に転生して、あなたの領地がとなりの豊かな土地より、麦も、ぶどうも、羊毛も、何もかも質で負けていたとしたら。それでも交易で豊かになれる道があります。鍵は、比較優位(ひかくゆうい)という考え方です。今日は、何を自分で作り、何を買うべきかを決める、領地経営の土台を見ていきます。
何でも自分で作る罠
生き延びるために、食べ物も道具も服も、すべて自分の領地でまかなおうとする。一見かしこいようですが、これには落とし穴があります。得意でない仕事にまで人手と時間を取られ、本当に得意なことへ回す余力が減ってしまうのです。自給自足は、安心と引きかえに、豊かさを手放しています。
絶対優位と比較優位
ここで二つの言葉を分けます。絶対優位(ぜったいゆうい)とは、同じ手間でより多く作れること。比較優位とは、ほかをあきらめてでもこれを作ったほうが得、という相対的な強みです。となりの土地に何もかも量で負けていても、比較優位は必ずどこかに残ります。ここが今日いちばん大事なところです。
決め手は機会費用
比較優位を見つける物差しが、機会費用(きかいひよう)です。あるものを作るために、あきらめた別のもの。それがその品の本当のコストです。ぶどう畑を広げれば、その土地で穫れたはずの麦をあきらめている。このあきらめた量がいちばん小さい品こそ、あなたが作るべきものです。
ぶどう酒と毛織物のたとえ
古くから使われるたとえで見てみましょう。南の国は、ぶどう酒も毛織物も、北の国より少ない人手で作れます。量ではすべて南の勝ちです。ところが南では、毛織物を作るとぶどう酒を大きくあきらめることになる。だから南はぶどう酒に、北は毛織物に専念したほうが、両国を合わせた生産量は増えます。
分業すると全体が増える
南も北も、それぞれ得意な品だけを作り、足りない品はおたがいに交換する。すると毛織物の量は変わらないまま、ぶどう酒の合計だけが増えます。増えた分を分け合えるので、量で劣る北の国でさえ、前より豊かになれる。これが、分業と交易の生む果実です。
強い国が全部作るのではない

よくある勘ちがいは、何でも安く作れる強い国が、すべてを作って弱い国を締め出す、という見方です。実際はちがいます。強い国にも体はひとつ、人手にも限りがある。すべてを抱えこめば、いちばん儲かる品を作る余力が減る。だから強い国も、あえて何かを手放して買うほうが得なのです。
特産品はこうして生まれる
現実の特産品は、この比較優位が土地の条件と結びついて生まれます。日当たりのよい斜面はぶどうに、湿った草地は羊毛や麻に、鉄の鉱脈がある谷は刃物に向く。人の技も同じで、代々の職人がいる町はその品をあきらめる痛みが小さい。だから自然と、そこの名産になっていきます。
転生先での使いどころ

ここからは実践編です。あなたが小さな領地を任されたとします。まずやるのは、自分の土地と近隣を見くらべ、うちがほかをあきらめてでも作るべき品はどれか、を一つに絞ること。すべての畑を均等に耕すのをやめ、その一品に人と土地を寄せていきます。
特化に踏み切る前提
ただし、特化は交易とセットでないと成り立ちません。作らなくなった品を、外から確実に買える道が要ります。安全な街道か水路、安定した取引相手、代金をやり取りする貨幣か信用、そして不作の年をしのぐ備蓄。この四つがそろわないうちは、一気に振り切らないほうが安全です。
ポイント
- 安全な街道か水路
- 安定した取引相手と貨幣・信用
- 不作に備えた備蓄
その世界流に小さく試す

いきなり全部を賭ける必要はありません。まずは畑の三分の一だけを特産品に回し、残りで食べる分は作り続ける。うまく売れて蓄えができたら、少しずつ比率を上げていく。すでに走っている市や隊商(たいしょう)に相乗りで荷を出せば、自前の輸送を持たなくても始められます。
見込める効果の程度
効果は、控えめに見ておきましょう。土地に合った一品へ半分ほど寄せると、その品の収穫は同じ人手でも二割から四割増えることがあります。ただし増えた分がまるまる儲けになるわけではなく、輸送費や価格の上下、買う品の値段で目減りします。手取りが一割から二割増えれば上出来です。
一品の強みから商いを広げる

一つの特産品で信用と蓄えができたら、次の一手が見えてきます。とれた品をその場で加工して価値を足す。同じ品を作る近隣とゆるく手を組んで値くずれを防ぐ。遠くの市へ自分で運んで中間の取り分を取る。比較優位は、領地の骨組みを決める、いちばん最初の問いなのです。
参考・出典
- Comparative advantage(Encyclopaedia Britannica)
- David Ricardo(Encyclopaedia Britannica)
- Comparative Advantage(The Library of Economics and Liberty (Econlib))
- International trade(Encyclopaedia Britannica)