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もしあなたが異世界に転生して、村や領地を任されたら。おそれるべきは、剣や魔物だけではありません。もっと多くの命をうばうもの。それが、飢饉(ききん)です。ふしぎなことに、飢饉は、ただ作物がとれなかったから起きるとはかぎりません。今回は、不作がどうして大飢饉に化けるのか、そのしくみと防ぎ方を解説していきます。
不作は毎年のように来る

まず知っておきたいのは、不作そのものはめずらしくない、ということです。長雨、日照り、霜、虫の大発生。天候は毎年のように、どこかの畑を痛めつけます。ですが、同じくらいの不作でも、飢える人がほとんど出ない年もあれば、多くの人がうえ死にする年もある。このちがいは、いったいどこから来るのでしょう。
ポイント
- 長雨・日照り・霜・虫は毎年来る
- 同じ不作でも飢える年と飢えない年
- そのちがいはどこから来るのか
飢饉の正体は分配と流通の失敗

答えは、意外なところにあります。多くの飢饉は、食べ物が国じゅうで底をついたから起きたのではありません。どこかの倉や、隣の地方には、まだ穀物が残っていた。それでも人はうえたのです。つまり飢饉の正体は、食べ物の絶対量よりも、それを必要な人にとどけられない、分配と流通の失敗なのです。
ポイント
- 国全体では底をついていない
- 倉や隣の地方には穀物が残る
- 正体は分配と流通の失敗
備蓄の失敗
一つ目の失敗は、たくわえです。豊作の年にあまった穀物を、きちんとためておけば、不作の備えになります。ところが貯蔵は、かんたんではありません。しめり気でかびが生え、ねずみや虫に食われ、何もしなければ一年で、一割から三割が失われることもある。備蓄がうすいまま不作が来れば、村はたちまち底をつくのです。
流通の失敗

二つ目は、流通です。ある地方は豊作、べつの地方は不作、ということはよくあります。本来なら、あまった土地から足りない土地へ運べばいい。ですが道は悪く、荷車はおそく、川や海の便もかぎられる。おまけに、どこで何が足りないかの知らせも、すぐには届かない。食べ物はあるのに、動かないのです。
ポイント
- 豊作の地方と不作の地方がある
- 道は悪く荷車も船もかぎられる
- どこが足りないかの知らせも遅い
価格の暴走
三つ目が、いちばんこわい、値段の暴走です。穀物のような、命にかかわる食べ物は、高くても買うしかありません。だから供給が、ほんの一割、二割へっただけで、値段は二倍、三倍とはね上がる。すると、たくわえのないまずしい人ほど、パン一つ買えなくなる。商人が値上がりを見こんで買いだめすれば、品不足はさらに加速します。
飢えの悪循環
そして飢饉には、おそろしい悪循環があります。食べ物がなくなった農民は、ついに来年まくはずの種籾(たねもみ)にまで手をつけてしまう。目の前のうえをしのぐためです。ですが、種を食べれば翌年、まく物がない。だから次の年はさらに不作になり、うえがうえを呼ぶ。一度この渦にはまると、なかなかぬけ出せません。
まっさきに弱い人が飢える

ここで大事なことを一つ。飢饉は、みなを平等におそうのではありません。まっさきにうえるのは、たくわえもお金もない、いちばんまずしい人たちです。だから国全体の平均だけを見て、まだ大丈夫と思ってはいけない。飢饉は天が下すものではなく、そなえとしくみしだいで、人が防げる災害なのです。
ポイント
- まっさきに飢えるのは弱い人
- 全体の平均だけ見てはいけない
- 天災ではなく人が防げる災害
実践①公共の穀物蔵を持つ

ここからは異世界での実践編です。まずやるべきは、公共の穀物蔵を持つこと。豊作の年に安く買い上げ、倉にため、不作の年に放出する。昔の中国の常平倉という蔵や、ローマが都に穀物を備えたのも、この考えです。倉は風とおしよく乾かし、ねずみをふせぐ。古い分から順に使う回転備蓄にすれば、むだがへります。
ポイント
- 豊作で買い上げ不作で放出する
- 常平倉やローマも同じ考え
- 乾かし・鼠よけ・古い分から使う
実践②流通を止めない

二つ目は、流通を止めないこと。飢饉のきざしが見えたら、まず道や橋を直し、荷車や船をかき集めて、あまった地方から穀物を運びこむ。そして、どこがどれだけ足りないかを、早くつかむ知らせのしくみをつくる。買いだめや売りおしみをする商人には、たくわえを市場に出させる。物が動けば、うえはやわらぎます。
ポイント
- 道と橋を直し荷車と船を集める
- どこが足りないか早く知らせる
- 買いだめさせず市場に出させる
実践③仕事をあたえて分配する

三つ目が、分配のくふうです。ただ食べ物をくばるだけでなく、道づくりや堤づくりといった仕事をあたえ、その賃金や穀物で暮らせるようにする。こうすれば、まずしい人に買う力がもどり、しかも村の役に立つものが残る。実際、後の世の飢饉対策でも、この仕事をあたえるやり方が、大きな力を発揮しました。
ポイント
- 配るだけでなく仕事をあたえる
- 賃金や穀物で買う力がもどる
- 道や堤が残り村の役に立つ
実践④効果と次の一手
では、どれほどちがうのか。たくわえも流通もない村は、一度の不作で多くの命を失います。ですが、数年分の備蓄と、はやい運びこみがあれば、同じ不作でも、うえ死にはぐっとおさえられる。ちがいは天候ではなく、そなえです。そして次の一手は、そもそも不作をへらすこと。作物を何種類も育て、輪作で地力を保てば、畑は災害に強くなります。
まとめ

飢饉は、ただ作物がとれないことではありません。たくわえのうすさ、流通の目づまり、値段の暴走、そして、種籾を食べる悪循環。これらが重なって、はじめて大飢饉になります。逆に言えば、備蓄と流通と分配をそなえれば、人は多くの命を救える。もし異世界に転生したら、どうか、このしくみを思い出してください。